こんなお悩みを抱えていませんか?
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- 各種の適性検査を試してみたがイマイチ使えない、という経験はありませんか?
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- 退職者から「パワハラされた」と言われた経験はありませんか?
- 女性従業員から「セクハラされた」と訴えられたが、どう考えても冤罪だということはありませんか?
- 今の就業規則は、処分の内容が甘いと思っていませんか?
- 年次有給休暇で年1回の基準日を設けていませんか?(大損です)
- 36協定を全拠点で出すのは手間だと思っていませんか?
- 社会保険労務士に顧問を依頼しているが、就業規則のメンテをしてくれないという不満はありませんか?
- 求人広告の代理店から「初任給が低すぎる」と言われて困ったことはありませんか?
名古屋の社会保険労務士 北見昌朗
懲戒処分で失敗!
北見昌朗の事務所は愛知県名古屋市にあります。社会保険労務士事務所というのは、就業規則に関連するいろいろな労務問題の相談が持ち込まれます。その労務問題の相談の中で多いのは、なんと言っても懲戒処分です。
そこで一つの相談事例をご紹介しましょう。就業規則に基づく懲戒処分で失敗した名古屋市の中小企業の事例です。断っておきますが、これは100%の空想です。守秘義務がありますので、本当にあった事例や、類似の事例はココには書けません。
北見昌朗の本業は社会保険労務士ですが、実は小説も書いています。大胆な空想に基づくストーリー作りは得意です。さあ、それでは物語を始めましょう。
20●●年8月15日
まだお盆である。名古屋の夏は暑い。蝉しぐれの朝8時、北見昌朗の携帯が鳴った。朝食の箸を置いて電話に出た。
こうした数多くのトラブル事例、まさに現場のナマの事例をもとに、「中小企業は自分の会社を守るためにどんな規程にするべきなのか」をつねに研究してきたわけです。
「あのう、先生、お休み中のところ、すいません。実はどえりゃあ困ったことがあって、相談にのってほしいのです」
電話の先は、名古屋の中小企業の社長だった。顧客ではなかったが、セミナーには時々参加いただいているので、面識はあった。ここでは「名古屋製作所株式会社」という社名にしておこう。
「どんなご用件ですか?」
「実は従業員の懲戒処分の問題で…」
「はい」
「セクハラ問題を起こした男性従業員がいたので、懲戒解雇にしたんです」
(何だかややこしそうだな…)
慌てふためく電話の声で、社長の困惑ぶりが伝わってきた。
「それで急ではありますが、先生に相談にのっていただきたいのです」
「わかりました。明日の午前中なら、9時から10時まで空いていますので、お話をおうかがいしましょう。その際に就業規則などの書類を持ってきて下さい」
8月16日
名古屋製作所の社長は70歳ぐらいだった。作業服を着て、来社された。若い総務課長も一緒だった。
名古屋製作所は、自動車部品を製造している会社で、従業員は数十人だ。大手自動車部品会社の調達本部が主催する労務コンプライアンス講習会があって、そこで北見昌朗は名刺を交換したことがあった。
「先生、どえらいことになってまったがや」
社長は、そう言いながらFAXを北見昌朗の前に出した。
「労働組合への加入通知と団体交渉の開催」と題されたFAXで、3枚に及んでいた。
「先生、まずそれを読んでちょうすか?」
社長はそう言うなり、大きな溜息を吐いた。読んでみると、こんな内容だった。
「従業員のAさんは、名古屋○×労働組合に加入したので、ここに通知する」
「従業員のAさんは、セクハラ行為を行ったと会社から言われて、懲戒解雇された。これはいわれなき不当な懲戒処分であり、抗議する。不当解雇の撤回を求めて団体交渉を要求する。なお、団体交渉は労働組合法で認められた権利であり、拒否すれば不当労働行為に該当する」
名古屋で社会保険労務士を長年やっている北見昌朗は、この種のFAXをよく見ているので、珍しくない。名古屋の労働組合は、FAXを使って連絡してくることが多い。顧客がFAXをもらうと、すぐ社会保険労務士法人北見事務所に転送してくるので、よく机の上に置いてある。
「それで、どんな話なのですか?」
社長は、ここから話し出した。長い話だが、要約すればこうだ。
その1ヶ月前の7月中旬である。女性従業員B子さんは、上司の男性従業員Aさんからセクハラを受けたと、会社に訴えた。社長と総務課長が話を聴いた。B子さんは、口頭で話してきた。総務課長が書き留めた。こんな内容だった。
「Aさんは、私の連絡先を教えて欲しいと言ってきた。ラインの番号を教えろと。私は嫌だったが、上司から言われたので教えた。すると、連絡が来るようになり、食事に誘われた。断り切れなくて、一度食事を二人でしたが、その際に『ホテルに行こう』と誘われた。好きな性行為の体位は何かなあと訊かれた。もちろん私は断った」
「Aさんは、仕事を教える際に私の身体を触る。肩を叩くのは頻繁だ。背中も触られた。頭を撫でられたこともある。とにかくボディータッチが酷い」
「Aさんから、スリーサイズを訊かれたこともあった」
B子さんは、ハンケチを手にしながら涙ながらに受けたセクハラ行為を克明に話した。セクハラ行為のあった場所や日時も、手帳を見ながら具体的に話した。そしてB子さんは、鞄から紙を取り出して、社長の前に置いた。
「退職届 私は上司のAさんからセクハラ行為を受けたので、退職します」と書かれてあった。
慌てたのは、社長だ。社内にセクハラ事件が起きては困る。そんな不祥事が表に出たら、会社の信用はまる潰れだ。
「ちょっと待ってちょう。退職届を出すのは待ってちょう。事実関係を明らかにするので時間をちょう」
社長は、退職届をB子さんに差し戻した。社長は、Aさんの顔を思い浮かべて、腹が立ってきた。
(あのウマ野郎はコソコソ隠れて、こんな馬鹿なことをしてきたのか!)
Aさんは30歳で、4年前に入社した。高校を卒業して以来、転職を重ねてきた。職歴が多いので不採用にするところだったが、本人が
「頑張ります。とりあえずアルバイトでも良いので雇って下さい」
と哀願するので採用した。求人難で困っている最中でもあった。
Aさんには妻子がいた。雇ってみると、技能の方は大したことはなかったが、前向きに覚えようとする姿勢はあった。そこで1年前に係長に昇格させた。部下にはB子さんがいた。
言われてみれば、社長には心おぼえがあった。忘年会で酒を呑むと、Aさんは酒癖が悪くなった。女性に寄り、やたらに声を掛けるのである。女性の肩を叩くので、社長は
「おい、おみゃあ肩を叩いたらダメだがや」
と注意したこともあった。Aさんは、面長だった。鼻が大きくて、鼻孔も膨らんでいた。人の二倍も三倍も息を吸いそうな感じで、近づくと、スウスウという鼻息が聞こえるほどだった。いつの間にか、社内で付けられたあだ名が
「うま」
だった。
一方、セクハラ被害者のB子さんは50歳で、3年前に入社した。パートタイマーとして入ったが、本人の希望により正社員に登用された。B子さんはバツイチで、高校生の息子が一人いた。
B子さんの涙ながらの訴えを受けて、社長はAさんを社長室に呼び出した。社長は、Aさんに詰問した。総務課長が聞き取りしたメモを見せながら、問い質した。
「相違ないきゃあ?」
凄い剣幕で社長に睨まれたAさんは、震え上がった。
「でも、僕はやっていません」
「しらばくれたら、アカンぜいも! どこで、何があったのか、具体的に調べは付いているでよう」
「…」
社長は、Aさんを睨み付けながら机を叩いた。Aさんは首を横に振ったが、社長は自供を求め続けた。1時間ほどの詰問をした後で、感情的になった社長は、つい口走った。
「おみゃーは首だ。懲戒解雇だ。明日から来なくても良いわ」
Aさんは、うなだれて退社した。
B子さんは、社長からの報告を聞いて、ホッとしたかのような表情になった。退職届けは取り下げた。
その1ヶ月後の8月14日。Aさんが加入した労働組合から団体交渉の申し入れがあった。真っ青になった社長は、血相を変えて社会保険労務士法人北見事務所に電話を掛けてきたという訳である。
8月17日
そんな経緯の上で、名古屋製作所の社長と総務課長は、名古屋市の社会保険労務士法人北見事務所にご来社された。ここからは、社長と北見昌朗の会話である。
北見 | だいたいのお話はわかりました。ところで、Aさんがセクハラをしたというのは、証拠がありますか? |
---|---|
社長 | B子さんの証言をメモしたものがあるでよう。コレだがね。 |
北見 | でも、これはB子さんの一方的な証言であり、これだけでは証拠不十分です。 |
社長 | そうですか…。 |
北見 | このメモにしても、B子さんが話した内容を総務課長さんが書き留めたものであり、どこまで真実なのかわかりません。せめて、ここに「相違ありません」というB子さんの一筆がほしかった。 |
社長 | そうですか…。 |
北見 | それからAさんを懲戒解雇した際の通知書を見せて下さい。 |
社長 | 口頭でしたので、懲戒解雇通知書は出しとらん。 |
北見 | それは問題です。懲戒解雇するならば、その理由を記載したものを書面で出すべきでした。 |
社長 | そうですか…。 |
北見 | それから就業規則を見せて下さい。 |
社長 | 本日持って来ました。 |
北見 | (施行日を見ながら) 就業規則が随分古いですね。10年以上前の規程ですか。それで懲戒解雇の規程はどこですか? |
社長 | さあ、就業規則なんて日頃見とらせんから、どこでしょうか? |
北見 | 貴社の就業規則を見ると、懲戒処分は次のような種類が載っています。 [懲戒の種類] 懲戒は次の7種とし、その一または二以上をあわせて行います。 (1) けん責 始末書をとり、将来を戒めます。 (2) 減給 始末書をとり、その金額が1回について平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金計算期間における賃金総額の10分の1の範囲内で減給します。 (3) 出勤停止 始末書をとり、14日以内出勤を停止させ、その間の賃金は支給しません。 (4) 昇給停止 始末書をとり、次回の昇給を一定期間停止させます。 (5) 解職 始末書をとり、その役職を解きます。 (6) 諭旨退職 退職願の提出を勧告します。 (7) 懲戒解雇 予告期間を設けないで即時解雇し、行政官庁の認定を得た場合は、解雇予告手当を支給しません。また、退職金は支給しません。 |
社長 | そうですか…。 |
北見 | 就業規則の懲戒解雇の事由をみると次の通りになっています。 [懲戒解雇事由] 従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は、懲戒解雇とします。ただし、情状により軽減することがあります。
|
社長 | さあ、わかりませんが、ここでしょうか? 「その他、前各号に準ずる不都合な行為があった場合」 |
北見 | 就業規則の懲戒規程が弱いですね。会社が従業員を懲戒処分するには、就業規則の中で具体的な記載が必要です。例えば、こんな形です。 「社内および取引先の従業員にセクシャルハラスメントをした場合」 |
社長 | でも、セクハラを行ってはいけないというのは常識的ではないきゃあも? いちいち就業規則に載せておかなければいけないこときゃあも? |
北見 | はい。会社が従業員を懲戒処分するには、就業規則の中で具体的な記載が必要です。 |
社長 | そうですか…。では、今から就業規則を変えたら、ええですか? |
北見 | 事後に設けられた規程に基づき、懲戒処分を科すことはできません。これを不遡及の原則と言います。なお、新しく就業規則に懲戒事由を設けた場合も、従業員に周知しておかないと、就業規則改正後の非違行為にも適用することができません。 |
社長 | そうですか…。 |
北見 | それから、就業規則に基づいて懲戒処分を行うには、一般的な手順が必要です。 |
社長 | 手順と言いますと…。 |
北見 | 懲戒処分は、重さを考えと、一般的には次のようなランクがあります。
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社長 | けん責とは? |
北見 | 始末書をとり、将来を戒めることです。 |
社長 | でも、そのAさんはセクハラ行為を認めないばかりか、始末書の提出も拒否したがね。 |
北見 | 従業員には、始末書を提出する義務はありません。 |
社長 | そうですか…。 |
- 北見昌朗のひとこと
- 「セクハラについては、行為態様、行為期間や被害態様等を勘案した上で、減給や出勤停止を検討することになります。なお、刑事事件に該当するようなケースについては、懲戒解雇も視野に入れる必要があるでしょう」
北見 | それから懲戒委員会を開いて、本人に弁明の機会を与えましたか? |
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社長 | なんですか? その懲戒委員会とは? |
北見 | 会社の就業規則には、一般的に懲戒委員会の開催が載っています。貴社の就業規則にも、このように載っていますよ。 [懲戒の手続き] 懲戒処分対象者は、顛末書を会社に提出しなければなりません。 2、 懲罰の決定、執行に関しては、懲罰委員会に諮ってこれを行います。 [意見聴取等および弁明] 委員長は、必要に応じて関係従業員の出席を求め、事実関係の説明または意見を聞くことができます。 2、 懲戒処分対象者は委員会に対し、自己の被疑行為について弁明できます。 |
- 北見昌朗のひとこと
- 「懲戒処分に関する手続規程がある場合、同手続規程を遵守しなければなりません。これらの手続を踏んでいない場合、懲戒処分は無効となります。また、就業規則上、手続規程がない場合であっても、重い処分(懲戒解雇など)を想定している場合には、従業員に対し、弁明の機会を与えるのが相当です」
社長 | へえ、そんなことが書いてあったのですか? 正直なところ、就業規則なんて見とらせんかったわ。 |
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北見 | 会社はセクハラ問題の相談窓口を設置してきましたか? 男女雇用機会均等法 第十一条では、このように定められています。 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」 |
社長 | いいえ。 |
北見 | 会社は、就業規則の中にセクハラ防止規程を設けていますか? |
社長 | いいえ。 |
北見 | 会社は、セクハラ防止のための管理職研修会を開いてきましたか? |
社長 | いいえ。 |
北見 | こんな就業規則では正直なところ、失礼ながら先が思い遣られますね。 |
社長 | そうですか、ところで労働組合との団体交渉ですが、受けなければいかんのきゃあ? |
北見 | はい、団体交渉を受ける義務が会社側にあります。それを拒否したら労働組合法違反ということで、不当労働行為になりかねません。 |
社長 | その不当労働行為とは? |
北見 | 不当労働行為とは、使用者が労働者に対してその団結権・団体交渉権・争議権および労働組合の自主性などを侵害する行為です。労働組合法では、組合員であることその他の理由で不利益な取り扱い(差別待遇)をする行為、黄犬契約・団体交渉拒否・支配介入などを禁じています。 |
社長 | ところで、労働組合は要求をしてくるのでしょうか? |
北見 | 考えられるのは、解雇の撤回です。会社が応じなければ、地位保全仮処分の申し立てを裁判所に起こすでしょう。 |
社長 | いよいよ裁判ということかやあ。 |
北見 | それから損害賠償とか慰謝料の請求も行ってくるでしょう。 |
社長 | 会社に勝ち目はあるきゃあも? |
北見 | 正直なところ、ない、と思います。セクハラ行為を証明できる証拠が少な過ぎます。裁判所がこのような乱暴な懲戒解雇を認めることは、期待できません。 労働契約法15条では、次のように定められています。 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」 |
- 北見昌朗のひとこと
- 「証拠は必ずしも十分ではないが、許しがたい行為なので、断固とした処分を実施したい」「他の従業員への影響を考慮すると、早く辞めてもらう必要があるので懲戒解雇にしたい」という社長がいるが、それは難しい。「懲戒処分は会社が自由に行える」との考え方が根底にあるものと考えられるが、それは法律的に通りません。
社長 | そうですか…。今さらセクハラ行為がなかったことにはできませんので、当分の間、会社の主張を貫きますわ。 |
---|
9月から11月まで
労働組合との団体交渉は、何度も重ねられた。労働組合は、懲戒解雇の撤回と、損害賠償や慰謝料の支払いを求めてきた。
だが、会社は要求を拒否した。このため、Aさんは会社を相手に名古屋地裁で提訴した。
12月1日
新聞に記事が載った。B子が、ストーカー容疑で警察に逮捕されたのだ。新聞によれば、B子は同僚の男性従業員Cさんに想いを寄せて交際を求めたが、断られた。そこで電話を一日に何十回もかけた。自宅の前で待ち伏せした。
新聞記事を見て、驚愕したのは社長だった。
(まさか、Aさんの場合も、声を掛けていたのはB子の方ではなかったのか?)
という疑念が沸いた。
社長が出社すると、総務課長が飛んできた。
「しゃ、社長、大変です。B子さんの件ですが…」
「なんだ、落ち着いて話せ」
「実は、社内で、B子さんから誘われたという男性が何人もいるのです」
新聞記事は、社内で持ちきりの話題になった。
「俺も、B子さんから声を掛けられたわ」
「私も、ラインの番号を聞かれたので教えたら、ハートマークのメールが来たんだ」
「エッ? あんたも。実は私も俺も誘われたよ。でも好みじゃなかったんで返事もせなんだ」
こんな感じで、男性従業員が声を上げた。
それを見て、慌てたのは社長だった。社長は、頭を抱えた。そして、名古屋の社会保険労務士法人北見事務所にやってきた。
「先生、実は…」
と、手にはB子逮捕の新聞を握り締めていた。
北見昌朗は、新聞を見て、思わず目が点になった。
社長は、怒りで拳を握りながら
「本当は、このB子が悪かったんだ。社内の噂によると、B子の方からAさんに近寄っていったそうだ。だが、Aさんに断られたので、腹いせにセクハラされたことにしたんだわ」
社長は怒りが収まらず、叫んだ。
「こんな根性悪の女は、懲戒解雇にしてやりてぇ」
北見昌朗は思わず苦笑してしまった。
「社長、ちょっと待ってちょう。懲戒解雇は待ってちょう。そのストーカー行為は、懲戒処分には該当しにくい。なぜなら社外で行われたことだからだ。そういうのは私生活上の非違行為といって、懲戒解雇にはしにくい」
社長は、納得のいかなそうな表情。
「ではどうすれば?」
「退職勧奨はいかがですか? 話し合いによる退職だがね」
「退職勧奨とは?」
「話し合いによる雇用関係の合意解約ですから、従業員が応じる義務はない。でも警察に逮捕されたという事実がありますので、話し合いに応じる可能性はあると思うわ。弁護士と協議の上で慎重に検討してちょう」
社長は、溜息を吐きながら頷いた。その顔には、苦悩がありありだった。白髪がさらに薄くなった感じだった。
社長の手には、黄ばんだ就業規則が握られていた。
- 北見昌朗のひとこと
- 「私生活上の非違行為については、原則として、懲戒事由とはなりにくい。もっとも、企業秩序に直接関連するもの、企業の社会的評価を毀損する虞があるものについては懲戒処分の対象となりえます。懲戒解雇が相当と判断されるケースは少ないと考えます」
(株)北見式賃金研究所(名古屋) 北見昌朗です。