鉄壁の就業規則トップ> 立ち読みコーナー『サッと作れる零細企業の就業規則』> 会社を守るために記載するとよい事項がある?

立ち読みコーナー 『サッと作れる零細企業の就業規則』

<第2章>就業規則 どんなことを書くか?

会社を守るために記載するとよい事項がある?

 その1 就業規則に退職・解雇・懲戒の具体的事項を定めておけば、やむなく従業員に辞めていただく時に、または、仕事を続けてもらっては困るといった時に、不当解雇と言われるリスクが大変少なくなってくると思います。なぜなら、労働基準法の定めにある、解雇事由は明示してあるので、従業員に納得して辞めてもらうことが可能となります。
 なにも、定めていなければ、従業員とは感情的な話し合いで、対応せざるをえないからです。交通違反に罰則の規定がなければ、罰することができないように、就業規則で定めておくことは、大変重要なことであるということは、ご理解いただけると思います。

 その2 就業規則に始業終業・労働日が、明確にされていて時間外の業務は社長の許可制等にするなど、残業時間がしっかり管理されていれば、残業代の計算で、退社したあとで、私は残業代をもらっていないとか、労働基準監督署から残業代支払ってもらえませんかといったことは、極力防ぐことが可能かと思います。
 最近一部の弁護士さんが過誤払いの消費者金融会社相手の取り立ての仕事がなくなってきたので、今度はサラリーマンのサービス残業代を会社に請求すると言った案件が急増することが予想されます。従って残業の多い家族的な会社は、このことに十分配慮して対処する必要があると思います。
 もし、在職中は問題ありませんが、退社してからしっかりした給与計算がなされていないと、過去2年分の残業代の請求がある日突然社長のもとにくるかもしれません。社長さん突然200万円支払えと言ってきたらどうしますか?
 例えば月20万の給料の方が、1日8時間労働、月平均勤務日数21日の従業員に毎月平均30時間サービス残業をさせた時は毎月約4万5千円の残業代になり、仮に2年分支払うことになれば約108万円の支払いになります。
 1人支払えばその他の従業員も言ってきますから、二人の従業員だとすれば約216万円を支払うことになります。 
 労働時間をしっかり管理していないで、仕事をさせてきた時は、殆どがその請求に対抗できず、支払わなければならない状況になってくると思われます。
 ですから社長さん、残業代というのは、毎月多少経費がかさみますが、退社した後で100万円とか200万円とか言われるリスクを考えるのであれば、労働基準法にしたがって毎月支払ったほうが、安心して経営できますし、従業員からも信頼されますので、いい効果を発揮してくると思います。また、社長さんも従業員の時間管理について、毎月考えないわけにはいかなくなるので、逆に経営にはプラスの効果になるのではないかと思っております。

 その3 会社には、日常の勤務につき、守ってもらいたいことが、多々あると思います。これを服務規律として、定めることは、会社経営において大変便利であると思います。社長さんはこの程度のことは、言わなくてもわかるだろうと考えても従業員が理解していないケースは多々あると思います。これを文書化したものが、服務規律だと思っていいと思います。この服務規律をさらに進化させて、具体的な仕事の内容を文書化した業務マニュアルにまで落とし込んでもいいと思っております。
 たとえば服務規律は具体的には、残業については、社長の許可制にする。これは逆にいうと許可なくしてした残業は
 残業代の対象にならないということを、定めているわけであります。また、酒気をおびて勤務勤務しないなどは、当たり前のことでありますが、規程されていないといいのかなとつい思ってしまうものです。人間の脳というのは凄もので、一度読んだ、文章とか映像は脳のどこかに保存されていると言われています。社長さん20年前にみた、映画でも、映像がはっきりと蘇り思いだす経験をしたことがあると思います。そうなんです、人間の脳はカメラのように、記憶しているのです。われわれは、そのカメラの記憶を、引き出して思い出しているのです。私の持論ですが、一般的に勉強ができるというのは、この脳の記録を引き出すことが、上手は下手かが、勉強ができるできないの違いではないかと思っております。ですから、社長さん服務規律で規程しておくことは、重要なことで無意識のうちに人間の行動パターンに影響を与えているのではないかと私は思っております。
 また、社長さん服務規律は、社長さんの会社の風土、社風といったものを、作っていく時のベースにもなってくると思います。考え方によっては、会社の独自性を最も発揮できる個所にもなってくると思います。

 その4 従業員が結婚式とか、お父さん・お母さんが亡くなった時、当然休暇になると思いますが、その際の定めをしておけば、給料を支払わない定めであれば、支払わなくても、大丈夫です。定めていなければ、従業員は休んでも当然給料は支払ってくれると思ってしまいます。支払わなければ社長はケチな人だと思われてしまいます。
 従って、会社として、従業員にできないようなことは、就業規則に事前に定めておけば、従業員に余計な期待も与えないので、業務をスピーディに進めることが可能であると思います。結婚するので1週間休暇をください、と言われて、給料を支払うならいいですが、支払わないのであれば、この休暇は無給だとは言いにくいのではないかと思います。従って中小零細企業では無休であるが、その代わり有給休暇があれば、それを消化してください言ったほうがベストな対応かと思います。

 その5 お金に関すること、例えば賃金の構成、基本給の考え方、昇給、賞与、退職金など規程にしておくことは、従業員が最も気にするところなので、しっかり規程しておくことがトラブル防止にもなりますし、従業員のモチベーションアップ対策にも大きな影響をあたえる個所かと思います。このことを考える上で、アメリカ有名な心理学者アブラハム・マズローの5段階欲求説は大変参考になると思いますので、紹介したいと思います。社長さんには知っているよと思っている方も多いと思います。それほど有名な学説でいろいろな分野で活用されております。この学説は労務管理には私は大変参考になると思っております。

マズローの欲求五段階説

マズローの欲求五段階説

 マズローが唱えた欲求五段階説では、表のように、人間の欲求は五段階のピラミッドのようになっていて、底辺から始まって、一段目の欲求が満たされると、一段階上の欲求を志すというものです。生理的欲求、安全の欲求、親和の欲求、自我の欲求、自己実現の欲求となります。生理的欲求と安全の欲求は、人間が生きる上での衣食住等の根源的な欲求であります。労務管理でいえば、失業していた人が、やっと就職できたとかいう状況であります。従ってこの段階の人はとにかく給料がいくらもらえるかが、一番重要な課題になります。ですからこの段階の方のモチベーションアップには、給料の多い少ないが最大の関心ごとになってきます。その欲求がみたされると次の欲求である親和の欲求は、他人と関わりたい、他者と同じようにしたいなどの集団帰属の欲求であります。この段階の人は労務管理でいえば、入社二・三年目の従業員が該当してくると思います。

 先輩従業員の方に早く一任前に認められたいと考えている状態で、給料は当社は世間並みの水準かどうかなど、賞与はどれくらいかなど気にしてくる段階で、モチベーションアップには給料だけでなく、仕事に権限や、達成感などを与えることが必要になってくる段階かと思います。そしてその段階も達成すると、次の欲求は、自我の欲求と言われるもので、自分が集団から価値ある存在として認められ、尊敬されることを求めてくる、いわゆる認知欲求が起きてきます。労務管理でいえば、仕事もベテランになり、課長、部長といった地位に目覚めてくる段階ではないかと思っております。ですから、この段階の従業員はお金よりむしろ役職がモチベーションアップに影響を与えるのではないかと思います。そして、この段階の欲求も達成すると人は、自己実現の欲求という、自分の能力・可能性を発揮し、創造的活動や自己の成長を図りたいという欲求に成長してきます。労務管理でいえば、自分に権限を与えてもらい、あるプロジェクトをやり上げるとかなどになると思います。

 この段階の従業員はお金よりむしろ仕事のやりがいがモチベーションにつながってくるのではないかと思っております。ひとつ気をつけなければならないのが、ここまでレベルが上がった従業員は、そうです社長さん恐れていることです。独立してやがて自分のライバルになってしまうことが考えられます。いかがでしょうか?従業員の労務管理はこのような、大局的な視点で、この従業員にどの段階の刺激を与えればやる気がおこるかを、考えてやらないと、ただ給料だけをアップしても効果がある人とそうでない人がいるということを、考えながら、給与関係の規定を作成する必要があると思います。そのことは、会社の従業員のモチベーションアップには、規定しておくことは、プラスになってくると思います。

>>目次に戻る